ラジオからパーソナリティーの高橋源一郎さんのこう言う声が聞こえた。
「ベタだけどこの曲をかけます、卒業といえばこの曲でしょう、荒井由実の"卒業写真"」
妙に懐かしい甘酸っぱい感じがよみがえる。
卒業は、進学や就職といった新たな出発とセットで捉えられるが、当事者には不安のほうが遥かに大きい、そういうものだった気がする。
この曲が生まれたのは1975年、今と違って情報も少ないので、未来はどこに向かうのか?、そもそも自分はどこにいるのか?が、わからないことが不安にさせ、後ろを振り返らされる。
現代では、過去は振り返るな、未来に向かえ!と言うことが多いが、今どこにいるかがわからなくなったら後ろを振り返りたくなる。
そうすると、自分の通った道が見えるような気がするが、振り返ってもよく見えない事が多い。
しかし、道は見えなくても気持ちを思い出すことはある。
一般的には、恋愛の歌と思われてるこの曲に出てくる"あの人"は女性らしい。
卒業写真〜ユーミンが実体験を重ねた歌詞に登場する"あの人"の正体とは!?〜
東京芸大で美術を勉強したかった荒井由実は、放課後美術教室の20代女性に美術を教わっていた。
『リンゴを描くんだったら、リンゴの裏側まで想像して描きなさい! 表面だけじゃなく、空気も描くのよ! 描けなかったら自分のスタイルが見つかるまで描きなさい』
しかし、東京芸大は不合格。
再チャレンジを約束するが、家庭の事情もあり滑り止めの多摩美術大学へ進学し、そこで美術よりも音楽に夢中になっていった。
そんなある日、街で美術教室の先生を見かけ、とっさに隠れてしまった。
後ろめたい気持ちがよみがえったのだ。
人混みに流されて変わってゆく私を
あなたはときどき遠くでしかって
あなたは私の青春そのもの
荒井由実の創作活動の原点には、美術教室の先生のことばがある。
スティーブ・ジョブズが言った、『点と点をつなぐ』をしんみりと思い出す。
You can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.
将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。
そんな事情を知っているかのように、高橋源一郎さんのことばが聞こえてくる。
『ベタだけどこの曲をかけます、卒業といえばこの曲でしょう、荒井由実の"卒業写真"』