お客様がいるならば、すべてのビジネスは役に立っている。
お客が付いているならば、この世に役に立たない仕事など無い。
少し前までだったら、これらのことばには説得力があった。
東日本大震災の翌年の2012年(平成24年)の公益財団法人日本生産性本部が発表した新入社員のタイプは『奇跡の一本松型』で、特徴として『想定外の困難に直面しても、それを克服することが期待される』となっている。
下記のように、新入社員のタイプの発表は現在は行われていない。
平成29年度をもちまして、新入社員の特徴とタイプの発表を終了させていただきます。
平成29年度 新入社員のタイプは「キャラクター捕獲ゲーム型」
1973年(昭和48年)から始まった新入社員のタイプで、新入社員を手放しで讃えたのは後にも先にも2012年のみだとわたしには見えた。
しかし、その頃を境目に、お客がいるからといって世の中の役に立ってるとは言えない仕事が急増したように感じられる。
仕事やビジネスは「儲かる」ことが何より大事で、「儲け」はお客から上げるしかないから、「お客を取ることが大事」という理屈だけが独り歩きを始めたように感じられる。
同時に、お客の側も変化し始めた。
自分が何を求めているのかを、上手く表現できない人が増え始めたのだ。
世間には同じようなものや似たようなものが溢れ、どれを選んでも大差なさそうだが、失敗はしたくない、だけどよく分からない、そんな思いを持つ人が増えたのだ。
自分で調べて判断して選択できる人は少数派で、多数派は『誰か』に答えを求めるのだ。
『誰か』は、自分の行動半径の中に存在する人で、リアルな友人や知人からネット上の匿名の人までさまざまいる。
わたしが思う役に立つ仕事と役に立たない仕事の境目は、アフターフォローへの対応だと感じている。
もっと分かりやすく言うと、売ることですべて終了と考えてるか、売ることは付き合いの始まりだと考えてるかの違いだ。
そういう意味で、現代は「売ることですべて終了」という仕事が増えているように感じる、結果「役に立たない仕事」が増えていると思っている。
「役に立たない」とは、客や従業員の「満足できない」に近いかもしれない。
「役に立たない仕事」は「やり甲斐の無い仕事」に通じる。
「売ることですべて終了」という考え方は、契約的でもある。
範囲を限定することで、範囲外は請け負わない、又は請け負う場合は追加の別契約となる場合が増える。
背景には、安く上げたい消費者と、そんな消費者を相手にしながら儲けたいと考える事業者の知恵比べがある。
事業者は、自社の従業員を消費者と同じように捉える傾向が強いので、隙があれば従業員からも儲けようと考える。
仕事には貴賎は無いが、やり甲斐が無いことはざらにある。
おもしろいのは、事業者と消費者の双方が知恵を使った結果、世の中に役に立たない仕事が増えたことだ。
普通に考えれば、知恵を使い合えば、役に立つものが生まれそうなのに。
付加価値が付いてれば高くても買う、付加価値を付けれれば高くても売れる、という考え方は確かに存在していた、というのはもはや昔話だろうか。
付加価値がキーワードとして機能する場合は、「役に立つ」を消費者も事業者も考える。
こうやって考えると、付加価値を求めなくなったことが、世間に「役に立たない」が増えるキッカケになっているように思えてくる。
付加価値というと、プラスαされたものと感じるが、現代はプラスαは簡単にコピーされるので、プラスαという発想は付加価値にはつながらない。
付加価値は、コピーしたくても簡単にはできないという点に宿るはずだ。
ありふれた言い方をすると、オリジナリティや独自性となるが、事業者が商品化を考えるならばそれがお客に伝わらなければ意味がない。
一方、お客の側からすると、世間に出回る商品がどれも大差ないものであればあるほど、それを活かしてオリジナリティを出すことはいくらでも方法がある。
目指すところではないかもしれないが、注目も浴びずに、大して人気もない事ほど、オリジナリティに溢れていると言えるだろうし、そういうものほど潜在的な付加価値は高いかもしれない。
付加価値についてじっくり考えると、自分の心の中の本音に気付けるかもしれない。