スポーツとして自転車に乗っていると、「今日はなんだか調子いいな〜」と感じる時は、たいてい追い風を受けている。
追い風を受けていることは案外気付かないもので、風向きが変わった瞬間に現実を思い知らされる。
「ああ、さっきまでは自分の調子が良いわけではなく、追い風のおかげだったんだ」と思い知らされると、自分自身のショボい実態にガッカリすることがある。
一方、最初から向かい風を受けている場合は、追い風の場合と違いすぐに気付く。
まるで嫌がらせを受けているかのように露骨な抵抗感を受けるからだ。
追い風であろうと、向かい風であろうと、走っていると耳の周りの空気が動いているのでざわざわした空気の音(=風)を感じるが、以前一回だけ不思議な体験をしたことがある。
1000m位の山で自動車はほぼ通らない道を自転車で「ハーハーゼーゼー」言いながら登っていた時、あまりの遅さにハチ(多分アブ)に絡まれたが、逃げるスピードもないし、ハンドルから手を離すとそのまま止まってしまいそうで振り払うこともできずにそのまま走り続けたことがある。
やがて、ハチはいなくなって気持ちが落ち着いたら妙なことに気付いた。
季節は初秋だからまだまだ暑いのは当然としても妙に暑すぎることと、周りの音がすごく鮮明に聞こえるのだ、鳥の鳴き声や木々の葉が揺れる音やタイヤと地面が接する音などが鮮明に聞こえるのだが、この鮮明さに違和感があるのだが、いつもとどこが違うのかがすぐには分からない。
しばらく走っていてふと気付いた。
いつもは、どのように走っていても耳の周りで風が発するざわざわした音が聞こえているのに、その音がその時は聞こえていなかったのだ。
だから、いつもだったら風の音に掻き消されていた音の数々が聞こえていたのだ。
そう考えると妙に暑いことも納得がいった。
おそらく、私がノロノロ走ってるスピードと全く同じ速度の追い風を受けていたのだろう。
だから、相対的に私は全く無風状態で山道を登っていたのだ。
なんとなく理屈は正しいと思っているが、このレベルであれば再現は可能だと思っているが、同じ体験をすることができずにいる。
こう言うことを「一期一会」と言うのかもしれない。
何の予備知識もなく体験して、体験後に知識を整理して次に備えて準備しても、同じ体験は二度とできないのかもしれない、それが一期一会なのかもしれない。
全然大した話ではないのだが、動いているのに無風状態だと音の聞こえ方がまるで違うということは結構不思議な体験だった。
もうずいぶん昔の話なのだが、暑い季節になるとふとした瞬間に思い出す。