ビジネス論を語る世界では「リピーターを増やせ」「リピート顧客を重視しろ」という意見が圧倒的に多い。
ビジネス論がリピーターを評価するのは、顧客を獲得するためのコストが違うからで、一説では新規客の獲得コストはリピート客獲得の10倍などと言われている。
ビジネスの規模が大きくなると、シェア率が高くなると、発展を目指すにしても現状維持を目指すにしてもリピーターに頼るしかなくなる。
毎年2500万人以上が訪れるディズニーランドは、来場者の97%がリピーターだと言われているが、この規模を新規客で回すことは不可能だろう。
同様なことはスポーツ観戦にも当てはまりそうで、特にプロ野球にそれを感じる。
家族や友人同士で手作りのプラカードなどオリジナルの応援グッズを持参しているのは間違いなくリピーターだろう、こういう観戦客が大勢いる。
しかし、プロ野球界は深刻な課題を突きつけられている。
野球人口の減少だ。
子供の野球人口が減っていることは何年も前から指摘されていたし、テレビの視聴率も落ちているので地上波は中継を減らしているが、スタジアムの観客動員数は減っていないのだ。
各球団がコアなファンを大事にする運営を取るようになったことで、リピーターが増えたことで観客動員数が減っていないのだが、統計上はコアなファン自体も減少傾向にあることで、いつかは観客動員数も減少に転じるかもしれないことが課題なのだ。
このように、事業の規模が大きいものほどリピーターを増やさないと事業そのものが存続できなくなる。
その際には、新たな商品やサービスを打ち出すことが肝心になる。
いやでもリピートせざるを得ない仕組みづくりとして独占することを理想に描くが、シェアが増えるとアンチも増え自然発生的に対立軸が生まれるようになるので独占は絵に書いた餅になる。
そう考えると、GAFAはどこまでいっても超巨大企業ではあり続けても独占はできないだろう。
ところで、リピートする人達がリピートする理由とはなんだろうか?
自分自身の内側に満足感や納得感があるから「もう一回」となり、同じループを繰り返すというのは誰でもイメージしやすいだろう、このパターン以外にどんなものがあるだろうか?
世間の評判は良いのに自分は良いと思えなかったので、その理由を知りたくてリピートするなんて意見を見たが、スポーツの試合などでは見た試合の展開によってガッカリするものと感動するものがあったりする。
たまたま初めて見た試合が、ルールもよく理解せずに見たら、あるいは試合展開が単調で盛り上がりに欠けていたら、もし客席の近くにマナーの悪い客がいたら、たぶんリピートしたいとは思わなくなるかもしれない。
そういう気持ちになっている時に、「もう一回見ようよ」と強く誘ってくれる人がいたら、あるいは試合の楽しみ方をルールを交えて解説する友人知人や情報に出くわしたら、もう一度見てみようかとリピートするかもしれない。
リピートするかしないかは自分の意思で決定するが、その意思にはさまざまな情報が介入してくる。
規模の大きな事業の場合は、リピーターを作ることは非常に重要だと分かるが、小さな規模だと事情が変わる場合がある。
おもしろい本を読んだ。
小さな事業規模に携わってる方には刺さることばがたくさんあるはずだ。
商品は1種類だけ、1本13cmのガトーショコラを3000円という高額でのみ販売し年商3億円を達成している著者は、実際にはリピート客が多いことを十分に理解し大切にした上で、エネルギーは新規顧客のために注いでいる。
リピート顧客に「思い出してもらう努力」をするよりも、新規顧客に「知ってもらう努力」の方がはるかに大事だと考えているその理由は、「ガトーショコラそのものがあまり知られていない」からと言っていて、リピート客はいないという前提で常に事業展開を考えているからなのだ。
これは、東京だから成り立つ考えとも言えるが、従来の新規顧客重視戦略の多くは、商品やサービスにリピートする魅力が無いからということが前提だったり、旅行客だけをターゲットにしたりというものが多かったのに対し、リピートする魅力に溢れていながらもリピートに頼らないというのは志が数段上を行ってるように感じられた。
この本は読む価値があると思う。
一般的に、リピーターを重視すると言えば極端な場合「一見さんお断り」のような敷居の高さを印象づけ、新規顧客重視と言えば「一度来た客は(うんざりして)二度と来ない」ような印象があり、両立させるものと言うよりも対立する考え方として捉えらることが多い。
ところで、みなさんはリピートするものを持っているだろうか?
リピートしてるけど惰性で続いているだけだったりしてないだろうか?
売ってる方は、リピートの鍵は商品やサービスの質だと感じるかもしれないが、買ってる方は人間関係を含めて商品やサービスとは無関係な理由で選んでいることも多いはずだ。
解約の手続きがめんどくさいからリピートしたり継続してるものが意外と多かったりしないだろうか。
失敗するかもしれない新たなものよりは、すでに知ってるものの方が安心できるからリピートしてるだけかもしれない。
最近のビジネスは、リピートさせるためにあの手この手を尽くしているが、決して満足度は高くないものが増えている。
通販が増えたからかもしれないが、丁寧な挨拶を兼ねたリピート促進の営業案内をよく目にする。
これらの手法もすでに飽きられ始めてるような気がするのは、きわめて予定調和を感じさせるからだ。
リピート客をつなぎとめるためにはまだまだ有効でも、新規客の獲得には役不足を感じる。
新規客の場合でも、満足度の高さよりも失敗の無さの方が重要なのかもしれない。
未知のものに対して失敗の無さを感じさせるためには何が必要だろうか?
世間の評判や、実際の利用者のレビューのような、広告宣伝とは違った情報かもしれない。
安いものが売れる一方で、高額のブランド品やオーダーメイドも売れている、それぞれ購買する層は違うかもしれないが、持ってる価値観は似てる気がする。
その価値観は『失敗したくない』で、その基準が『コストパフォーマンス』。
コストパフォーマンスのことを略して『コスパ』と呼ぶ場合は、単に価格が安いモノ、お得感があるモノ、あるいはたまにはちょっと贅沢を楽しむ、を指しているような気がして新規客が選択する場合の基準や尺度になることが多い。
リピートする人達は、『コスパ』以上の『コストパフォーマンス』を感じてるはずで、高額でも一生モノだと思えれば、あるいは価格以上の満足や納得が得られるということで評価してるはず。
コストパフォーマンスが確立してる商品やブランドは、自分自身が納得するだけでなく他人を納得させる力も持つことが多い。
ただし、現代人はブランドを過度に信頼しながらも移り気が強いので、常に『コスパ』と『コストパフォーマンス』を天秤にかけている。
満足感や納得感の持続時間は思ってる以上に短いかもしれない。
新規客とリピート客のどちらが重要かを考えていると、『コスパ』と『コストパフォーマンス』のどちらを重視するかに行き着いたことが我ながら興味深い。
商品やサービスを企画する際は、作り手としての思いを込めることよりもお客の目にどう映るかを意識する方が大事だが、これはとても難易度が高いのだが、そんな時は「あれが必要、これが必要」と無い物ねだりをしがちだが、そんな時ほど「余計なことをやめる」ということがヒントになるのかもしれない。
こんなところにも断捨離スピリットが影響を及ぼしてることがおもしろい。