イチローさんが、メジャーに移籍する際に、筋肉を増やしてパワーで対抗する必要があるだろうと筋トレに勤しんだ話は有名で、その効果はすぐに上がり、発揮するパワーは増えたが、かえって壁に直面することになった。
パワーは上がったのに、全体として発揮されるパフォーマンスは明らかに低下したからだ。
体や動きにキレがなくなると感じたらしい。
そこで、筋トレをやめると筋トレで付いた筋肉は落ちたが、幸いなことにキレは取り戻せた。
トータルでは、体や動きにキレがある方が遥かに良かったのだ。
何が影響してるのか?
イチローさんに興味がある方で、イチローさんはどんなトレーニングをして鍛えていたのだろうかということに興味がある方だったら、初動負荷理論に行き着くだろう。
『反射の起こるポジションへの身体変化及び、それに伴う重心位置変化等を利用し、主働筋の「弛緩—伸張—短縮」の一連動作を促進させると共に、その拮抗筋ならびに拮抗的に作用する筋の共縮を防ぎながら行う運動』(小山裕史:『「奇跡」のトレーニング』)
キーワードは共縮。
世は筋トレブームだが、健康のためだけにやってるならば好きにやって構わないが、発揮するパフォーマンスを上げたいならば注意が必要になる。
最大の敵が共縮なのだ。
少しざっくりと共縮とは何かというと、スポーツの世界では力みといわれる状態。
肩の力を抜けなどともいわれるが、言語明瞭だが意味不明の代表格で言ってる本人もよく分からずに使っているフレーズで、根性論と結びつきやすいが、本当は重要な指摘なのだ。
筋肉は関節と関節の接合部を繋ぐように配置されてるので、二箇所で固定されている。
その二箇所の間で筋肉は縮むと伸びるを交互に連続的に行なっている。
この縮むと伸びるがスムーズに行かないと、動きの連続性が互いに対立し拮抗することでスムーズに行かなくなる、しかし筋肉への入力はされているので体力は消耗していく。
やってる本人は必死で一生懸命なのだが、消耗してる体力は動きには反映されず無駄に終わる。
更に、手や足をイメージすれば分かりやすいが、骨の両側に対をなす構造で筋肉が配置されてるので、縮んでる筋肉(=力を発揮してる側)の対をなす側の筋肉は伸びている。
手や足が動作を行う場合、この縮んだり伸びたりを交互に連続的に繰り返して、掴んだり、振ったり、投げたり、走ったり、跳んだりしてるのだ。
筋肉自体がパワーを持つことも有効だが、総合的なパフォーマンスが問われる場合には、筋肉の伸びと縮みの繰り返しが滑らかにスムーズに行われる方がより重要なのだ。
だからこそ、イチローさんは活躍できたし、その後追従するような選手が出てこないところを見ると、言うは易く行うは難しなのだろうと思える。
世が筋トレブームなのは、簡単だからというのも大きいような気がする、筋トレしかしてない人の筋肉は共縮を頻繁に起こすのは、それが筋トレの本質だから。
個人的な意見だが、プロのスポーツ選手やトップクラスのアスリートが筋トレに走る時は落ち目に悩んでいる時で、筋トレをすればするほどパフォーマンスを落としてるように感じてる。
その諸悪の根源が共縮なのだ。
そんな共縮に似た現象は、筋肉だけでなく、人間の営みの中にもあったのだなということを嫌というほど見せつけられたのが東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長人事をめぐってのドタバタ劇だったと感じるし、これだけに留まらない日本の根本的な問題だと思える。
部分的な筋肉は頑張って力を発揮しようとしてるのに、連携や協調を無視して自分勝手に力だけ出していて縮んだら縮みっぱなしで、伸びたら伸びっぱなしになっていたんだなと感じられた。
共縮という観点で世の中や自分自身を見渡すと、やれそうなことが、やったら効果がありそうなことが、たくさんあることに気付けるような気がしてくる。