何かの分野でキャリアを積み上げてベテランになることは良いことだと思われているが、もうすでにそういう話は通用しなくなっているのかもしれない。
特に技術やテクノロジーが関係する分野では。
このような分野では、敵は新しい技術になるが、多くの場合抗うことには意味がない。
一方、手作業に依存する分野ではアナログの器用さの能力の絶大さは揺るがないので、ベテランは無敵の存在になりえ、敵になるのは病気やケガや老化になる。
純粋に手作業の分野は趣味やアートに収束するのだろうが、そんな分野もテクノロジーと無縁ではない。
デジタルテクノロジーにはプログラムが付き物だが、そのプログラムの基となるプログラム言語もどんどん新しいものが出ている。
一昔前の言語にだけ精通してても現場では有能ではいられない時代になっているとすれば、そしてそのサイクルがどんどん短くなってるとすれば、ほとんどの人が新しいテクノロジーに対しては常に初学者でしかいられないし、そのような状態ではビジネスの場では何年キャリアを重ねても常に新入社員と大差ない評価しか受けないので実態としては使い捨て要員にしかならない。
このように考えるとブラック企業は、悪意からだけでなく、悪意のない必然の要素によっても生まれるなと思えてくる。
大きな本屋に行ってテクノロジー関連の分野の棚を見てると、いかにも簡単にテクノロジーが身につくと錯覚するような超初心者向けの本から、これはベテラン向けかなと思えるような小難しいタイトルの本まである。
何が書いてあるか見てもチンプンカンプンだが小難しいタイトルの本を手に取って見て、重箱の隅に目を凝らすと、その手の本でも初学者を意識してそうな記述があるのだ。
本は、出版の企画から実際に本が出来上がり流通するまでにはそれなりの時間差があるので、最新が知りたい人の期待に本が応えることはない。
本は、少し遅れてる人が、少し遅れてる情報を最新だと思う人向けのものなのだ。
しかし、本にも良さがある。
もちろん良い本に限っての良さなのだが。
一つのテーマに対して体系付けられた解説がなされていれば、初学者に役立つだけでなく、ベテランの復習にもなるし、ベテランほど知識や経験が断片化しやすいが、それをまとまった体系で整理することには役立つ。
しかし、これを継続してもベテラン中のベテランにもなれないし最先端の人にもなれない、ただ新しいテクノロジーに対して初学者サーフィンを繰り返すだけだ。
格差の大元には、そもそもの活躍を意識してのフィールド選びの失敗がある。
少し前までは、このような現象は市場やマーケットとのミスマッチと言われていたが、どうやらそれだけではなさそう。
従来の出世のように少しずつのステップアップで上を目指すというスタイルは絵に描いた餅になってしまったのだ。
そうは言っても悲しいことに、人は初学者サーフィンをステップアップと称して繰り返すことしかできないのだ。
この流れから抜け出す術を持ってる人は、そのノウハウは決して教えないはずだ。