先日、編集者の視点について書いたが、その際に柿内芳文さんという「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」という本の編集者のことばを引用した。
今日は、その「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者である公認会計士の山田真哉さんのことばを参考にしてみたい。
今日書くことのほとんどは、ビジネス書、なぜ売れない?「さおだけ屋」著者と振り返る平成30年史に書いてあることで、私自身の備忘録として書いている。
なお、グラフ等はこのサイトから引用している。
リアルタイムで過ごした時間の流れの中で起きている変化には案外気付かないものだ。
だから、上手に総括してくれる誰かの意見は非常に役に立つ。
全面的に同意できなくても、その頃何が起きていたのかを感じることができる。
他人の考えてることは、その懐事情と同じで、本人以外には意外に知られてないし、どうかすると本人自身も理解してないことがある。
書籍全体としては、1997年がピークだったが、その中でビジネス書は、2000年台も売れ続け、2010年台に入り息切れを見せ始めた。
なぜ、出版不況と言われる中で、ビジネス書は売れたのか?
本に読者としてしか接することがないと、深く考えることなく、読者がビジネス書を買うからだ、としか思ってなかった。
強いて言うなら、小説よりもビジネス書の方がリアリティを感じさせてくれるという意識を私は持っていた。
また、小説は娯楽であり、エンタメであり、リフレッシュにはなっても、仕事の役に立つとは思えなかったからで、それに比べてビジネス書はどこかに自分の役に立つヒントがあるのではないかという目で見ていた。
しかし、出版界がビジネス書に活路を見出した背景には、文芸や専門書に比べて作家に対しても、書店に対しても、楽でコストがかからないジャンルだったかららしい。
人々の意識がビジネスに向かうキッカケとして、1997年の山一證券や北海道拓殖銀行の破綻があり、"寄らば大樹の陰"に疑問を持つ人が増えたが、これは潜在的な動きだっただろう。
そして、2000年頃のITバブルから2003年頃にかけての株の上昇がキッカケで、"マネー本"が売れはじめ、自己投資や外資系企業がキーワードになり始めた。
当時は、ピンとこなかったが今にして思うと、この頃から世の中全体が儲けを個人に還元する、つまり結果を出す人と結果を出せない人の間に格差が付くようにシフトし始めた。
これは、ビジネス書が出版界でもてはやされたのと理由は同じで、始まりはコスト削減なのだ。
この辺りから、社会のキーワードは、"費用対効果"や"償却(元を取るまで何年かかるか)"になりだし、これが後に"生産性"にシフトしたのだ。
一見、合理的なこの考え方が、その後急拡大するブラック勢力につながるのは明らかだが、これはエコシステム的に捉えれば"淘汰"そのものだと言えそうで、現在はまだその過渡期だと考えられる。
大組織の理屈から、少組織の理屈になり、現在は個人ベースの評価システムに移行したと言えそうだ。
2008年のリーマン・ショックと2011年の東日本大震災は、温故知新な古典回帰を促し、2009年に出版された「もしドラ」は21世紀で最大のヒットで電子書籍を含め280万部以上売れた。
2位もドラッカーの本だ。
スマホの普及などがキッカケで、ビジネス書は2010年台に入って下落傾向にあるが、スマホを含めたネットに負ける理由は何かと言うと、情報の中身が同じだったら、お手軽な方が重宝されるのは当然で、紙の本がネットに対抗しようとすれば中身の見(魅)せ方しかないのだ。
紙の本がネットに勝てる時は、ネットで表現し伝える内容は全く同じでも、伝わるイメージが薄っぺらくなる。
宗教を持たない日本人は、道標を本に求める傾向があるように感じる。
自己啓発書というジャンルは、宗教に代わる役割を担っているように見えるが、今ではビジネス書と自己啓発書の境界が曖昧になっている。
どちらも、予測不能な未来に意識が向かい出してるからで、最近良く目にするAIやVRあるいはエネルギー問題や地球温暖化など、答えが過去には無い課題が山積みになって立ち塞がっている。
「Amazon ランキング大賞 」2018 上半期で振り返る、最も売れたビジネス書Top10
を見ると、最近のビジネス書は、トレンドワードをキーワードにした自己啓発書になっているように感じる。
売れる本にも格差が生じつつあるように見える。
一度読んだら、BOOKOFFに行くような売れるという現象だけを作るベストセラー扱いの本と、買った人がいつまでも本棚に入れておくような本でピークを過ぎても売れ続けるロングセラーという格差。
これから起きることは、未知のことが多いとすれば、新しいことを知識として吸収しなければいけないが、何をどうやっても所詮人間のやることだと考えれば、時代を超えて支持されるものの中にヒントがあるかもしれない。
ベストセラーを選ぶか、ロングセラーを選ぶか、ここが人生の分かれ道になるかもしれない。