違う見方

新しい時代の始まり。複数の視点を持つことで、情報過多でややこしい現代をシンプルに捉えるための備忘録的ブログ。考え方は常に変化します。

『物語』を疑え

朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』を読んで深く感じるところがあったので、備忘録を兼ねて少し掘り下げてみたい。

 

この本を書くにあたって朝井リョウさんがどういうことを考えていたかは次の動画が参考になる。

 

 

youtu.be

 

 

推し活がテーマであるがそこに焦点が当たった理由は、推し活というファンダム経済が、欲しいものしか欲しくないという財布の紐が固い現代において、ビジネス的活路を見出すために需要が集中しているからだ。

 

SNSをフル活用してあの手この手で推されようと画策するのは政治にも及んでいる、なぜあの政党が支持されるのか?

 

支持されてるというよりも推されたからだ。

 

なぜ推されたか?

 

答えは、推させるための仕掛けがあったからだ。

 

 

その仕掛けこそが『物語』なのだ。

 

古来、人心を掌握するために活用されたのが物語だ。

 

子供が親しむような童話や寓話に始まり、人生では様々な物語に出くわす。

 

世界の宗教には実にたくさんの物語がある、その物語が信者を掴むのだ、教祖の力と物語の合わせ技だが物語の方がより強いはず。

 

いや、教祖自体が物語でもあるはず。

 

そんな物語が深層心理に刻まれるから秩序が維持されるという良い面もあるが、影響を受ける物語の種類によってはテロや戦争まで起こる。

 

物語を活用するという戦略はヒトラーも用いていた。

 

ヒトラーの大衆煽動術と呼ばれるもので、以下の10条から成り立っている。

 

 

1.大衆は愚か者である。

 

2.同じ嘘は繰り返し何度も伝えよ。

 

3.共通の敵を作り大衆を団結させよ。

 

4.敵の悪を拡大して伝え、大衆を怒らせろ。

 

5.人は小さな嘘より、大きな嘘に騙される。

 

6.大衆を熱狂させたまま置け。考える間を与えるな。

 

7.利口な人の理性ではなく、愚か者の感情に訴えろ。

 

8.貧乏な者、病んでいる者、困窮している者ほど騙しやすい。

 

9.困難都合の悪い情報を一切与えるな。都合のよい情報を拡大して伝えよ。

 

10.宣伝を総合芸術に仕立て上げろ。大衆の視覚・聴覚を刺激して、感性で圧倒しろ。

 

 

 

この10の要素を組み合わせた物語を作り、それを話が上手な人に伝えさせることによって、あるいは上手ではなくても量で圧倒できればその物語は独り歩きを始め真実として機能し始める、歴史は繰り返すというが人間はそういうことを繰り返しているのだ。

 

詐欺やフェイクニュースが影響力を持つのは、その情報に接した人が自身の人生経験や知識に照らし合わせて、その情報を瞬時に正当化させる物語を脳内に描くからだし、騙されない人はその情報を正当化する物語が脳内で描けないからだ。

 

 

冒頭で紹介した朝井リョウさんの動画には、物語を本気で信じた人は集団を形成するとある。

 

なるほど、確かにそうかもしれない、その物語を信じない人は総数では多数派でも、信じないというだけで団結したりはしない、つまり信じない人が数の上では多数派でも一人一人はバラバラなのに対し、少数派でも団結し連帯すれば影響力は信じない人を圧倒するかもしれないのだ。

 

アナログの時代には少数派はお互いの存在を知ることすら困難だったはずだが、現代ではこんなにいるのかと実感できるはず。

 

 

それが何であれ動機が形成される時、そこにはきっと物語がある。

 

どんな物語であっても疑うということが重要だろう。

 

考える時間すら与えてくれないような物語はきっと破綻している、そのくらいの達観は必要だろう。