安いもの、お得なものを称して日本ではリーズナブルと呼ぶ。
英語で書けばreasonableとなり、reasonが元になってると分かる。
reasonの辞書的な意味を改めて調べてみたが、大きく二つの意味を持つ。
可算名詞としてのreasonと、不可算名詞としてのreason。
可算名詞のreasonの意味は、理由や原因。
不可算名詞のreasonの意味は、思考や分別や理屈。
reasonには安いやお得という意味はなく、reasonableも同様だ。
しかし、ビジネスの世界の価格設定や値付けの理屈を表現する次の表現を思い出すと、安いものやお得なものをリーズナブルと呼ぶ理由が分かる気がしてくる。
安いものには理由がある、しかし高いものには理由はない
安いものの、安くできる理由や理屈に納得できるならば、安いものはリーズナブルなものと言えるのだ。
そういえばと思い出されるのは、安いものをリーズナブルと呼ぶ前の時代には、安物買いの銭失いというものがあったということだ。
安いものには理由があるのに対し、高いものには理由はない、だとすれば高いものを選ぶ際の決め手には何があるのだろうか?
そういう時は反対語に着目すると見えてくるものがある。
不可算名詞としてのreasonの反対語はemotion。
そうすると、日本語化したreasonableの反対語はemotionalとなるはずだ。
いつの頃からか巷で見聞きすることが増えたエモいということばはemotionalに由来する『感情が揺さぶられた状態』を示す若者言葉として定着したことと併せて考えると興味深い。
一般的にはエモいということばはemotionalという以上の意味では認知されてないと感じられるが、エモさを感じてしまうと判断に際してのreasonが弱くなったり欠落する傾向が避けられないはずだ。
この『エモい』とほぼ同じタイミングで急速に広まりだした言い回しに『映え』があるような気がするので、これに『リーズナブル』も加えてGoogle Trendsで検索可能な2004年以降で比較してみた。
社会に定着していたように感じられるリーズナブルという価値観は大きな変動を見せることがなかったことがなかったと分かるとともに、直近では下落傾向が見えるが、その下落に反比例するかのようにエモいが伸びてるように見える。
そして、エモいを牽引したのが映えだったと受け止めることができそうにも見える。
エモいや映えを重視すると言うことを一言でいうと、デザインを重視するということだと思う。
形あるものだけでなく、もっと幅広い範囲を示すので生き方やライフスタイルも含まれるはずだ。
さて、コロナが価値観の激変を余儀なくしてるとすれば、どう言うことが予測できるだろうか。
ビジネスが、売り上げや利益を『客数X客単価』を基準に考えた上での成長や成長率を気にすると、客数を増やすことと客単価を上げることに夢中にならざるを得なくなる。
エモいや映えが目覚めさせたデザイン意識が廃れるとは思わないが、リーズナブルが復権するのではと思える。
この場合のリーズナブルはロジカルとも被りそうだ。
売り手市場か買い手市場かで、あるいは商品やサービスの価格によってエモさとリーズナブルさは天秤にかけられながら対立軸として扱われるが、コロナ前に当てはまっていた公式めいたものがあったとすれば、それは今後は当てはまらなくなるのだろう。
極端にエモさの側に寄っていた空気が、そうではなくなっていることにはほぼ全員が気付いているはずだが、エモさが求められてないわけではない。
エモい⇄リーズナブル、という観点で今後の推移を見るのもおもしろいかもしれないと感じてる。